イタリア国民投票(Referendumレフェレンドゥム)について

 

イタリアで6月に国民投票(Referendum)が行われるので、簡単にまとめてみました。

  1. Referendumとは
  2. Referendumの種類
  3. Referendum abrogativoの対象となる法律
  4. Referendum abrogativoの流れ
  5. これまでの結果
    • 近年成立した例
    • 近年不成立した例
  6. 2025年6月に行われるReferendumの内容
  7. 投票できる人(在伊日本人は投票できるか)

Referendumとは

イタリアでは、Referendum (レフェレンドゥム)という国民投票制度が行われています。生まれたきっかけはファシズム政権の後、イタリア王政を廃止するかどうかを国民投票で決めて、国民投票の結果が国統治形態を決定した、という「成功体験」が国民の意見を反映する重要な制度として定着させたようです。政策や法律などについて国民の意見が尊重されることで政治家のみの意志で決定されることを避けたり、決定されたことを覆したりすることができます。

Referendumの種類

Referendumの中に色々な種類があり、

  • Referendum abrogativo 廃止を求める国民投票
  • Referendum costituzionale 憲法改正に関する国民投票
  • Referendum territoriale 特定な地域での重要決定の是非を問う国民投票
の3つが憲法で定められています。ここではReferendum abrogativo(廃止を求める国民投票)について書きます。
(これに関する憲法原文(第七十五条)はこのサイトで見ることができます。)

Referendum abrogativoの対象となる法律

ここでは対象とならない法律を述べます。つまり、これ以外に関する規定に関しては対象となるということです。
  • 税法および予算に関する法律
  • 御社および減刑に関する法律
  • 国際条約の批准を承認する法律
  • 憲法上拘束された内容を持つ法律、憲法規範、憲法改正法

Referendum abrogativoの流れ

流れとしては簡単にまとめると
発議→認証→審査→告知→投票→開票→法的効果
となります。

発議

50万人以上の有権者による署名、または5つ以上の州議会からの要請によって国民投票案を提出されます。
(ちなみにイタリアには20の州【regioni】があり、人口規模的には日本の『県』に相当します)

認証

認証は最高裁判所の担当事務局によって行われます。
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署名などの合法性/有効性をチェックして、は次が適切に行われたかを確認します。

審査

憲法裁判所によって行われます。
国民投票の対象となる法律が対象内のものか、文言が明確か、などを審査して 承認(ammissibile)か却下(inammissibile)の結果を出します。
最近の却下された例では、『地方ごとの自治』に関する法律(地方の管轄事項を定義するための基準、国と地方が合意を締結するための手続き、そしてその実施を監督するメカニズムを定めている法律(legge n. 86 del 2024, come risultante dalla sua sentenza n. 192 del 2024)の廃止を求める発議が却下されました。

告知

大統領によって行われます。
政令を出し、国民投票の期日を告知します。実施日は日曜日と翌日月曜日ですが、時期はなぜか4〜6月に行われることが多いようです。(2025年3月31日の告知

投票

投票用紙はわかりやすいように色ごとに分かれていて、裏には廃止を求める法律の条文(またはその一部)が示されています。(例 2025年6月8-9日実施予定の投票用紙 pdf)
イタリア内務省のサイトより

廃止に賛成→SI、廃止に反対→NO、と投票します。

開票

開票後、投票結果が集計され官報に発表されます。

法的効果

廃止が成立するのは、投票率が50%以上、かつ有効投票の過半数が『SI`』と投票した場合、投票結果発表日(官報掲載日)から効力を発揮します。有効投票の過半数が『NO』であった場合、その法律は存続します。
投票率が50%未満であった場合、国民投票は不成立となり、廃止を問われた法律は存続します。

これまでのReferendumの結果

Wikipediaにわかりやすいグラフがあったので添付します。
投票率が半数を超えたもののが、明るい🟩と🟥で示されていて、半数以下だったものは暗い色になっています。有権者の半数を超える投票というのはなかなか厳しいと思いますが、関心がある事柄に関しては投票率も上がるということだと思います。表を見て🟩が🟥以上である場合は、国民投票によってそれに関する法律が廃止された、ということを示します。

成立した例

  • 水道民営化を義務付ける法律→廃止
  • 水道水の料金設定において民間企業に『適正利益』を保証する規定→廃止
  • 原子力発電所の建設およびそれに関する規則を許可する法律→廃止
  • 首相および閣僚の在職中の刑事訴追を免除する法律→廃止
  • 公安に対する特別法(警察権限強化)→存続
  • 終身刑を定める法律→存続
  • 銃器携帯許可証に関する規則→存続
  • 妊娠中絶を認める法律→存続

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不成立した例

  • 司法改革に関する5つの法案(勾留、裁判官の責任、裁判官の評価、キャリアパス、弁護士の司法評議会参加など)→投票率20.9%
  • 選挙法(比例代表制における阻止条項や候補者名簿の固定)→投票率23.3%
  • 体外受精に関する規定(肺の作成数制限、凍結禁止、異質受精の禁止、肺の研究や実験の禁止、着床前診断の禁止、異性間カップル以外への生殖補助医療の適用禁止→投票率25.9%(ただし、その後法改正は行われた)

2025年6月に行われるReferendumの内容

  1. 勤続年数に応じて保証がふえる無期契約と不当解雇に関する法律(従業員15人以上)
    • もともと不当解雇された労働者は職場復帰させる義務がありましたが2015年に解雇手当の支払いで済むことになったので、それを2015年前の法律に戻す(SI=廃止)かどうかを問います。
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  2. 中小企業における不当解雇時の補償に関する法律(従業員15人以上&15人未満)
    • 不当解雇の場合の金銭補償の上限があるのを撤廃(SI=廃止)して裁判官が補償額を決めることができるようにするかどうかを問います
  3. 期限付き雇用契約に関する法律
    • 期限付き契約に関しては期限ありとするための具体的な理由を明記する義務が2015年前にはあったのですが、改正により理由なしで期限付き契約をすることができるようになったので、それを2015年前の法律に戻す(SI=廃止)かどうかを問います。
  4. 請負契約における連帯責任に関する法律
    • 特に建築分野で発生した損害に対して現在の法律では、請負業者や下請け業者の作業での労働災害において発注者は責任を負いません。その法律を廃止(SI=廃止)して労働災害が発生した場合、発注者、元請、下請けなどすべてが共同責任を負うとするかどうかを問います。
  5. イタリア市民権に関する法律

    • イタリア市民権(イタリア国籍)を取得するのに必要な条項の一つに、EU圏外の人は10年間イタリアに居住していることが含まれていますが、それが制定される1992年には必要居住期間は5年間でした。現在の法律を廃止(SI=廃止)してそれ以前のように居住5年でイタリア市民権を取得できるようにするかどうかを問います。

投票できる人は?

一般的な有権者、つまり18歳以上のイタリア市民権を持つ者(登録されていない場合は選挙人登録名簿【Liste elettrali】に登録する)です。イタリア国外に住むイタリア国民も在外選挙人名簿に登録すれば投票が可能です。イタリア市民権を持たない者(滞在許可証を持つ外国人)に関しては、投票権はありません。
ちなみに、EU市民権を持つ者は、欧州議会議員選挙と地方選挙には参加できます(選挙人登録名簿に登録が必要)。EU圏外(例えば日本国籍を持つ者)の人は、イタリア滞在許可証を持っていても選挙に参加できません。

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