イタリア国民投票について - その2 (憲法改正)


イタリアで2006年3月22日と23日にかけて国民投票(Referendum)が行われました。今回は、『憲法改正に関する国民投票 (Referendum Costituzionale)』 でした。
前回は『法律廃止を求める国民投票』について説明しました。(参照
今回の『憲法改正を求める国民投票』は少し異なります。

憲法改正の流れ

憲法改正のためには次のように審議があります。
イタリアには上院 (Senato della repubblica 200人) と下院 (Camera dei Deputati 400人) がありますが、両院で2回の審議にかけられます。2回目の採決で3分の2以上の賛成が得られた場合は『成立』しますが、賛成が過半数には達したが3分の2に満たない場合、国民投票に進みます。

効果

そして、『法律廃止を求める国民投票』が50%以上の投票率を要しているのとは異なり、『憲法改正を求める国民投票』は投票率に関係なく、多数決で決まります。

今回の争点

今回の争点は裁判官(giudici)と検察官(PM)のキャリアを分離するかどうか、でした。

現在のイタリアの仕組み

イタリアでは裁判官と検察官は同じ『司法官(magistrati)』という扱いです。
というのも、司法の独立性を強く守るために作られた仕組みで、検察官も行政ではなく、司法の一部となっているからです。

なぜ、憲法改正と関連するのか

イタリア共和国憲法の中では
  • Art. 104. La magistratura costituisce un ordine autonomo e indipendente da ogni altro potere. (後略)
 (司法は他のいかなる権力からも独立かつ自律したひとつの機関である) という条項があり、"un ordine"(ひとつの機関)であるため、裁判官と司法官がひとつの期間に属しているという前提になります
  • Art. 105. Spettano al Consiglio superiore della magistratura, secondo le norme sull'ordinamento giudiziario, le assunzioni, le assegnazioni e i trasferimenti, le promozioni e i provvedimenti disciplinari nei riguardi dei magistrati
CSM(最高司法評議会)は、司法官の人事権に関する権限を持つ。ここで、司法官と呼ばれるのは、先に述べたように裁判官と検察官を指すことになります。
 ですから、裁判官と検察官を司法官として同じ組織の中にあるという前提で書かれている憲法のもとで、裁判官と検察官のキャリアを分離する、という法律は作れないということになるのです。もし憲法改正が成立していたら、CSMも二つ作るという流れになっていました。

結果


投票率は50%を超え、多くのイタリア人がこの投票に関心を持ち投票に参加した、と言えます。賛成46.26%、反対53.74%で反対派が勝利した、ということは憲法改正は却下されたということになります。

とはいえ、投票した人が全て投票によってどういう結果がもたらされるか、何が変わるのか/変わらないのか、ということよりも、贔屓の政党がNoまたはYesと言っているからNoまたはYesに投票しよう、という決断に至ったのではないかという懸念もあります。

実際、Noと投票した理由として

  • この法律案ができたのはベルルスコーニ政権の時だったので、ベルルスコーニ(とその後の右派政権、メローニ首相も含む)に反感を持つ人はNoに投票した
  • 『憲法改正』という言葉を聞くと「憲法が変わる→悪いこと」というイメージを持ち「変わらないことを望む」という意味でNoと投票した
  • 憲法で謳われている『司法権の独立』が『憲法改正』によって脅かされると考えNoと投票した
などという理由も多いのではないかと思いました。これらの推測は全く私見です。

実際のところ、ヨーロッパの他国では、裁判官と検察官のキャリアが分離されている国(以前は一体型だったが、近年分離した国も含む)も多くあるということもわかりました。

一体型 イタリア、フランス、ベルギー、ルクセンブルク、ルーマニア

分離型 ドイツ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、オランダ、ノルウェー、フィンランド、スェーデン、デンマーク、ハンガリー、スイス、ポーランド、オランダ、スロバキア

特殊分離型(英米法) イギリス、アイルランド

現況の把握

それでは、裁判官と検察官のキャリアの分離状態は現在どのような状況か、というと『カルタビア改革(Riforma Cartabia)』が2022年に成立しており、キャリアの変更(裁判官→検察官、検察官→裁判官)は、一度のみ認められ、その時期もキャリアの最初の10年の間に決断する、という制限があります。さらにキャリアの変更をする場合は、別の管轄区域へ移動するというせいげんもあります。つまり、裁判官と検察官が忖度を行えないようにという配慮はすでにあるということです。憲法改正がなされなかったことによって司法官(裁判官と検察官)を管理する組織はひとつである、ということは据え置きとなりました。司法権の独立、についてはもともと確立されているのでその変更はありません。

国民投票の意味とは何か

今回、周りのいろいろな人の意見を聞いたり、記事を読んだり、自分なりに調べたりしてずいぶん明瞭になった点もありますが、はっきり言って『何月何日に国民投票があります。テーマは〇〇です。詳しい説明はこのサイトでご覧ください』という宣伝では、国民は詳しく調べようとはせず、いろいろな噂やそれこそSNSの動画など見て決める、という人もいて根本的な情報もないまま投票した、という印象を受けました。結局は、宣伝方法がうまかった政党の思うような結果になり、政治のひとつのツールとして使われてしまったな、と感じます。それでも、過半数の国民を投票に向かわせた、という点は評価に値します。

最近国民投票で改正された例

国会議員数の削減(2020年)これは記憶にも新しいのですが、投票率51.12%、『賛成』投票率69.96%という結果でした。国会議員を減らすことで政治コストの削減、議会の効率化を推し進めるという案でした。

以上、私なりの見解でした。


コメント